アウトリーチとは？

アウトリーチの考え方は医療や福祉の分野で特に重要視されてきました。

なぜなら、精神障害者や生活困難を抱える方のなかには、自分から支援を求めることが難しい場合があるからです。

日本では2002年に初めて精神保健医療福祉の分野で、サービスチームが発足され、翌年から臨床活動が始まりました。

厚生労働省が検討会を重ね、2011年度には全国15都道府県で24チームを立ち上げ、精神障害者へのアウトリーチ支援をさまざまな職種に広げる取り組みがスタートしました。

言葉の意味と由来

英語のoutreachは直訳すると「外へ手を伸ばすこと」です。

相手が助けを求めてくるのを待つのではなく、こちらから積極的に関わり、支援の手を差し伸べる姿勢を表します。

アウトリーチは、もともと欧米で、精神障害をもつ方の地域での支援から始まった考え方です。

代表的なサービスモデルがAssertive Community Treatment（ACT）では、精神障害者が暮らす地域に出向き、状況に応じて迅速かつ効率的に支援や意思決定を行う取り組みを指します。

支援者の側から地域へ出向き、必要なサポートの提供こそアウトリーチの基本的な考え方です。

介護福祉におけるアウトリーチの定義

アウトリーチの一般的な定義は、支援を必要としている方々に、支援者が積極的に出向いて働きかけることです。

訪問だけにとどまらず、本人の希望やニーズを見出し、さまざまな職種が協力して総合的な支援提供を意味します。

2020年に改正された社会福祉法では、地域のすべての住民を対象にした包括的な支援体制づくりが定められました。

柱の一つがアウトリーチであり、特定の分野に限らず、困りごとを抱える方に継続的に支援を届ける仕組みとして位置づけられています。

訪問看護とアウトリーチ支援の違い

訪問介護やアウトリーチ支援はともに利用者の自宅や地域に出向いて支援を行う点で共通していますが、目的や対象者、支援内容には明確な違いがあります。

• 訪問介護：特定の医療や介護の必要がある方が対象、看護師や介護士が専門的なケアを提供する在宅サービス
• アウトリーチ支援：制度やサービスから取り残されがちな方が対象、対象地域で積極的に見つけ出し多職種が協力して包括的かつ予防的に支える取り組み

　

訪問介護は決まったニーズに応える専門ケアで、アウトリーチ支援は支援が届きにくい方に手を伸ばす包括的アプローチです。

介護福祉におけるアウトリーチの目的

介護福祉でのアウトリーチの目的は、重層的支援体制整備事業の一環として示されており、単にサービスを届けるだけではありません。

支援が届きにくい方のもとへ積極的に関わり、生活上の困難や孤立を防ぎながら、地域のなかで安心感をもって暮らせるように支えることが重視されています。

こうした取り組みを通じて地域の誰もが排除されず、互いに支えあう地域共生社会の実現にむけた重要な手段としてアウトリーチは位置づけられています。

支援者側から能動的に関わる

介護福祉でのアウトリーチの根本的な目的は、支援を必要とする方に対して支援者側から積極的に働きかけることです。

単に訪問するのではなく、本人の希望やニーズを引き出し、多職種が協力して包括的に支援する点に特徴があります。

生活困窮者など自らSOSを発しにくい方を早期に発見するため、地域のネットワークや関係機関と連携し情報を収集しながら、信頼関係を築き継続的に寄り添うことで孤立や問題の深刻化を防ぐ役割を担っています。

孤立や社会的排除を防ぐ

アウトリーチは、地域共生社会の実現に向けて孤立や社会的排除を防ぐ重要な役割です。

重層的支援体制整備事業に基づくアウトリーチは、特定分野に限らずすべての住民を対象に支援を届け、ひきこもりや支援拒否の方にも信頼関係を築きながら社会への参加を後押ししています。

地域でのつながりを基盤としたセーフティーネットを強化し、孤立の予防と共生社会の実現につなげていきます。

介護の仕事の素晴らしさや必要性を伝える

さまざまな職種が協力するアウトリーチでは、介護業界で活躍している方々も少なくありません。

例えば、社会福祉士は支援チームの調整役として相談支援や生活環境の調整など幅広い役割を担当しています。

介護福祉事業所も地域の重要な拠点としての参加で、専門性や地域貢献の姿がみえる化され、介護の価値や重要性が社会に広く伝わるきっかけとなります。

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アウトリーチの手法

アウトリーチは支援を必要としている方々へ、支援者が積極的に対象者のいる場所に出向いて働きかけます。

対象者と信頼関係を築き、その方の状況や地域の特性に応じて柔軟な対応が重要です。

支援者は創意工夫を凝らし、訪問や対話の活用などさまざまな方法を組みあわせ、本人にあった適切な支援や制度につなげていきます。

代表的な手法を詳しく解説します。

自宅訪問

自宅訪問はアウトリーチのなかでも直接的で重要な方法です。利用者の暮らしを実際に確認し、相談だけではわからない生活状況や課題を把握できます。

特に外出が困難な方やひきこもりの方にとって、自宅訪問は欠かせない支援の手段です。

また、継続的な対面支援を通じて信頼関係を築き、家族とも連携しながら寄り添うことで支援の継続性を高めます。

さらに適切な段階で地域の支援機関へつなぐことで、本人が安定した生活を送れるようサポートを行っていきます。

巡回支援

巡回支援とは地域に積極的に出向いて対象者自身が自覚していない、あるいは言語化できていない課題やニーズを把握し、関係づくりのきっかけをつくる取り組みです。

まず、特定の地域や施設を定期的に地域住民が集まる場をめぐり、支援につながっていない世帯や本人を把握しやすい環境を整えます。

福祉教育や子ども食堂などの住民同士の交流や関係機関のネットワークを活用し、早期に情報を得て支援へつながる役割も担います。

電話相談

電話相談は、対面での支援が難しい場合や初期の接点として活用される重要な手法です。

支援を必要とする方がアクセスしやすいよう、電話だけでなくメールやFAXなどさまざまな方法で相談を受け付けることが推奨されます。

継続的な関わりを通じて信頼関係を築くことが重視され、医療実態調査（ACT）でも電話コンタクトは対面支援と並んで重要な支援手段として活用されています。

また、電話相談は地域住民への広報や周知活動の一環として位置づけられ、支援者からのアクセスを容易にするための方法の一つです。

SNS相談

SNS相談は、LINEやTwitterなど特に若年層や対面、電話での相談に抵抗があるITリテラシーが高い層へ効果的なアプローチ手段です。

近年、行政やNPOもSNS相談窓口を設け、SNSは地域住民への情報や潜在的ニーズの把握の手段として活用され、ホームページやブログと並ぶさまざまなきっかけの一つです。

身近なデジタルツールでのやり取りは、相談窓口にアクセスしにくい人々を支援につなげ、地域社会での孤立防止や社会参加の促進に役立ちます。

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アウトリーチを実践する際の課題

地域住民に寄り添った支援を実現できるアウトリーチは、孤立防止や継続的な支援につながる大切な手法です。

しかし、効果を十分に発揮するためには、いくつかの課題を克服する必要があります。

例えば、対象者が抱えるさまざまな事情に柔軟に対応できる体制づくりや、支援者の負担を軽減しながら継続性を確保する仕組み作りが求められます。

また、地域全体での連携や協働をどのように強化していくかも大きな課題の一つです。ここでは3つの課題を紹介します。

対象者との信頼関係の築き方

アウトリーチ支援での大きな課題は、対象者との信頼関係をいかに築き、維持するかという点です。

支援の対象となる人々は、長期のひきこもりや複合的な課題を抱え、必要な支援が届かないまま支援自体を拒む傾向があります。

そのため支援者は訪問や同行支援に加え、さまざまな手段を通じて丁寧かつ継続的に関わり続けることが重要です。

生活状況を細かく把握して一人ひとりにあわせた柔軟な支援を行うことで、信頼関係が深まり、継続的な支援につながります。

プライバシーや権利との調整

アウトリーチは、支援者の方から対象者に積極的に関わる取り組みです。

そのため、相手の気持ちや考えを大切にできるか、プライバシーを守りながら支援できるかが大きな課題になります。

支援が届いていない方を見つけるために、地域の関係者から本人の状況を聞く場合がありますが、同意をえる前の段階でどこまで踏み込むかは慎重に判断しなければなりません。

情報を扱うときは守秘義務を徹底し、無理に介入するのではなく、信頼関係を築きながら本人が納得できる支援につなげることが大切です。

介入のタイミングと支援の境界線

アウトリーチは早期に気付き、早期に支えることを目指しますが、支援を始める時期や続ける期間と終えるタイミングをどう見極めるかが大きな課題です。

また、一つの機関だけでは対応できない複雑な課題も少なくはないため、複数の支援機関で役割を分担しながら連携する必要があります。

さらに支援は一時的でよいのか、長期的に続けるべきかと支援期間の検討や、個別支援から地域全体の支援体制へどうつなげる境界線も大きな課題です。

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介護の現場はやりがいや社会に貢献している実感を得られる仕事です。

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アウトリーチの具体的な事例

アウトリーチは、医療・福祉・行政・地域住民などさまざまな分野や機関が連携しながら支援を行うことで、複雑な課題を抱えている方にも包括的かつ継続的なサポートを届ける方法です。

実際にどのような場面でアウトリーチが行われているのでしょうか。具体的な事例を取り上げながら、役割と効果をみていきましょう。

高齢者宅への訪問

高齢者宅への訪問は、重層的支援体制整備事業の重要な取り組みです。この事業は特定の分野に限定せず、地域のすべての住民を対象に複雑な課題への対応を目的としています。

高齢者世帯では8050問題やごみ屋敷など孤立が深刻化しており、相談だけでは見えない生活の実態を訪問で把握し、支援につなげます。

包括支援センターや介護予防事業などと連携し、水道や電気、新聞配達員など地域の関係者からの情報を活かすことで潜在的なニーズを早期に発見して適切な支援へつなげていくことが必要です。

家出中や引きこもり児童への支援

家出やひきこもりの子どもや若者もアウトリーチが必要な大切な対象です。

長くひきこもり状態にある方や家出中の方には、必要な支援が届きにくい課題があります。

そのため、訪問を通じて本人や家族と顔をあわせ、生活の様子を把握しながら信頼関係を築くことが大切です。

滋賀県野洲市では、地域の専門機関から専門相談員が学校に入り、生徒と日常的に関わりながら支援が必要な若者を見つけ出しています。

こうした日常の場での関係作りは、家出やひきこもりなど支援につながりにくい青少年への有効なアプローチです。

支援を拒否する人へのアプローチ

支援を拒否する方への対応はアウトリーチのなかでも非常に難しく、こういう事例こそがアウトリーチが存在する理由であり、特徴です。

拒む背景には改善を諦めている、社会や支援者への不信感などさまざまな理由が考えられます。

そのため信頼関係の構築を第一に考えて、直接訪問だけでなく先述しているいろいろな手段で継続的なつながりを模索します。

また、対人不安や心身の不調で外出が難しい場合には、自宅訪問など柔軟な支援が重要となるでしょう。

ホームレスへの支援

生活に困っている方は、自分から「助けて」と言い出せないことが少なくありません。なかには住まいを失った方、いわゆるホームレス状態の方も含まれます。

ホームレスの方々に対しては相談に来るのを待つのではなく、支援者が自ら探し、声をかけるアウトリーチが欠かせません。

重層的支援体制整備事業では、生活困窮者への相談支援や地域づくりを包括的に行い、住まいの確保や就労支援とも連携して支援します。

例えば自宅を失った方に住まいを確保しつつ、就労につなげていく取り組みは社会復帰への重要なステップであり、アウトリーチの実践例です。

一般的な人材紹介会社は幅広い業界を扱うため、各業界の専門知識に欠けます。

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介護福祉の現場でアウトリーチを広げるには

介護福祉の現場でアウトリーチを広げるには支援を必要としていながらもサービスにつながれない方に対し、支援者が積極的に出向き、信頼関係を築くことが重要です。

2021年4月に始まった重層的支援体制整備事業では、介護・障害・子育て・生活困窮などの縦割りを超えて支援を一体化し、複雑な課題を抱える住民を包括的に支える仕組みの整備を目指しています。

介護業界では、アウトリーチを広げていくうえで、未来に向けて介護職の役割が多様化していくでしょう。さらなるアウトリーチの普及方法を紹介します。

地域包括支援センターなどの活用

介護福祉の現場でアウトリーチを広げるには、地域包括支援センターなどの既存の公的機関の積極的な活用が大切です。

センターは高齢者に限らず、障害や子育てと生活困窮などの幅広い課題に対応し、関係機関と連携して支援を進めます。

長崎市では合同研修を通じて潜在的な相談者を早期に発見する取り組みも行われています。8050問題やダブルケア、ごみ屋敷など複雑な課題にも調整役として機能する重要な拠点です。

ICTの活用による支援

介護福祉の現場でアウトリーチを広げるには、ICT（情報通信技術）の活用が欠かせません。

訪問が難しい場合でも安否確認で見守りができ、ホームページやSNSで情報を届けることで支援を知らない方にもアプローチできます。

チャットなどオンライン対応は若者や対面に抵抗がある方とのつながりづくりに有効です。

ICT活用は、支援の入口を広げると同時に介護職が見守りや情報発信、地域との橋渡しなど多様な役割を担うことを示しています。

アウトリーチを広げて活躍できる介護職を探している方は

アウトリーチの解説をしてきましたが、介護の仕事はこれからますます地域とつながり、支援が届きにくい方へ手を差し伸べるアウトリーチの役割が重要になります。

訪問やICTを活用した見守り、地域とのネットワークづくりなど、介護職の活躍の場は広がっていくでしょう。

介護職は単なる介護にとどまらず、地域の安心感を支える存在として必要とされるやりがいのある仕事です。

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