口腔ケアの目的

口腔ケアにはさまざまな効果があり、それを実現するための手技です。

しかしただお口の清潔を保つだけなのか、具体的な目的がわからないと、やりがいも見失ってしまうかもしれません。

具体的に口腔ケアにはどのような効果があるのでしょうか。ここでは、口腔ケアの効果と目的について詳しく説明します。

お口のなかを清潔に保つ

お口のなかをきれいに保つのは、清潔感や審美性を保つために重要です。外見の問題だけでなく、口臭の予防や味覚の改善も期待できます。

口臭の原因は舌に付着した舌苔であり、舌だけでなく歯茎の隙間や頬など擦って汚れをとることでも予防可能です。

また、舌苔が厚く付着したり口腔乾燥が進んでしまったりすると味覚が鈍くなります。味覚が鈍くなると食欲が落ちる恐れがあります。

高齢者の食欲低下や体力低下を防ぐ意味でも、口腔ケアで口腔内を清潔に保ちましょう。

病気の予防

お口が汚れたままだと細菌の塊である歯垢が溜まりやすくなります。歯垢はむし歯や歯周病の直接的な原因であり、全身疾患を引き起こす菌の温床です。

インフルエンザなどのウイルスが身体に侵入しやすくなるだけでなく、歯周病菌が血中に入り込むと心筋梗塞などの心臓病のリスクになります。

また、お口の汚れは誤嚥性肺炎の原因になります。誤嚥性肺炎は食事や汚れた唾液を誤嚥することで発症する可能性の高い病気です。

積極的に口腔ケアを行い、25ヶ月間で肺炎の発症は40%、死亡率は50%減少させることができたという研究結果もあります。

口腔ケアをすることで、飲み込む機能や咳き込む機能を改善させ、肺炎予防につながるのではないかとも期待されています。

さらに、抵抗力が弱くなっている高齢者が陥る可能性があるのが日和見感染症です。

健康な方にとっては病原体とはいえないような細菌によって感染症にかかってしまいます。このリスクを抑えるのが口腔ケアです。

認知機能の低下予防

口腔ケアを実施して歯周病や虫歯を予防することは、歯が抜けることを防止し、認知症予防も可能です。

ものを噛む行為が脳によい刺激となることが、認知症予防につながると考えられています。

ある研究で歯が20歯以上残っていたり入れ歯を使用したりする方に対して、歯を失って入れ歯も使用していない場合、認知症の発生リスクが最大1.9倍と示されました。

入れ歯装着も含めて歯が20歯以上残っている80歳以上の方々は、自家用車に乗っていたり携帯電話を保有したりしている割合が高いというデータもあります。

もし高齢者が虫歯や歯周病になってしまった場合、早めに歯科医に診てもらいましょう。

唾液分泌を促す

介護を必要とする高齢者の多くはお口の機能が低下しているうえ、内服薬の副作用などの要因もあって口腔内が乾燥しやすくなっています。

お口のなかは常に37度に保たれており、常に食事や汚れにさらされている環境です。

そこで自浄作用のある唾液が減少すると、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。口腔ケアによってお口を刺激することで、唾液分泌を促せます。

要介護者が口腔ケアを嫌がる理由

介護が必要な高齢者のなかには、口腔ケアを嫌がる方もいるので、対応を考慮しなければいけません。

しかしお口をきれいにするのになぜ嫌がるのか、理由がわからないという方もいるでしょう。

口腔ケアを拒否することには理由があります。ここでは、口腔ケアを嫌がる理由を説明します。

歯磨きの必要性を忘れており不快感がある

高齢者が口腔ケアを拒否する理由の一つが、認知症が進行して、清潔感を維持できなくなったり歯磨きの必要性がわからなくなったりしている場合です。

歯ブラシなどの道具を見せても、何に使用するものか理解できないケースも多々見られます。

認知症の方は嫌な記憶は覚えている可能性が高く、口腔ケアに不快感があると、似た場面や道具で同じように拒否することがあります。

まずは、すぐに口腔ケアには移らず、体調を確認しながら世間話をすることから始めましょう。安心感を持った状態だと受け入れやすくなります。

開始する際には、丁寧に説明します。完全には理解できなくても信頼した相手ならば、激しく拒否することも少ないでしょう。

お口のなかに傷があり触られたくない

口腔ケアを拒否するのは、お口のなかに異常がある場合も想定されます。

認知症の方や我慢するタイプの方は、お口に痛みや傷があっても訴えられない可能性があります。また、お口という敏感な部位を触られたくない方もいるでしょう。

口腔ケアはお口のなかを確認できる貴重な時間でもあります。態度や表情でも判断できることはあります。

言葉にならない異常を察知するためにも、口腔ケアは急がす丁寧に行うことが重要です。実際に行うときは、痛みを確認しながら実施します。

硬い歯ブラシで焦って磨くと痛くて不快なことと思われてしまうので、注意が必要です。もし傷や虫歯があれば、早急に医師に診てもらいましょう。

理由や考慮する点がわかっても、現場で拒否されたらどうしようと心配している方がいるかもしれません。

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介護での口腔ケアの手順

口腔ケアの目的をご紹介してきました。口腔ケアは単純にお口をきれいにするだけでなく、病気の予防などにも効果的な手技です。

口腔ケアは心身の健康を守る大事な方法といえます。しかし、実際に行うと何から始めたらよいかわからないので手順が知りたい、と思うかもしれません。

ここでは、口腔ケアの手順を詳しく紹介していきます。

入れ歯を外して口腔内をチェックする

まずはお口を開けてもらい、入れ歯を装着している場合は外します。そして口腔内をチェックしましょう。

歯や歯茎だけでなく口の天井や頬と歯の間など見えにくい部分も、汚れや異常がないか確認が必要です。

食後は見えにくい場所に食事の残りが留まっていることがあります。

初めて口腔ケアをさせてもらうときはできれば唇や舌がどのくらい動くのか、口臭はあるか、入れ歯は合っているのかまで確認しましょう。

初めに確認することで異常があれば早めに対応でき、その後にも変化に気付きやすくなります。

また、寝たきりの方や意識がはっきりしていない方は、口腔ケアを行う前に声かけしながら顔や口唇などをマッサージすると覚醒を促しやすくなります。

歯磨きと入れ歯洗浄を行う

歯がある方は歯磨きを行いましょう。力を入れすぎないようにして、痛みを確認しながら行います。

口のなかを刺激しているとだんだん唾液が分泌されます。

口腔内が湿潤されるので口腔ケアは実施しやすいですが、特に嚥下障害のある方は唾液の誤嚥に注意が必要です。

スポンジブラシなどでこまめに取り除きましょう。

可能であれば、吸引器で唾液を取り除きながら行うと誤嚥のリスクが軽減されます。

入れ歯を使用している場合は、食事のカスなどを洗い流した後で義歯用ブラシで磨きます。義歯用のブラシがなければ歯ブラシで軽くブラッシングしましょう。

ブラッシングしてすすいだら、水に浸けます。入れ歯は乾燥しすぎるとひび割れたり変形したりすることがあるからです。

義歯洗浄剤があれば使用して清潔感を保ちましょう。

お口の粘膜や舌を清掃する

自分の歯がない場合や入れ歯を外した後は、お口の粘膜や舌を清掃します。

お口の粘膜は口腔ケア専用のウェットティッシュやスポンジブラシで優しく拭います。

清掃するときに、頬や舌を刺激して動かすことでストレッチすることが可能です。

寝たきりの方はお口を動かすことも少ないので、機能維持のために特に意識的に行うとよいでしょう。

舌は舌苔や食事のカスが残りやすい場所です。一見きれいに見えても拭ってみると汚れがついてくることがあります。

舌は傷つきやすいのでウェットティッシュやスポンジブラシで優しく拭き取ることが大事です。

拭き取るときは、奥から手前、中から外の方向にブラシなどを動かします。そうすることで汚れをお口に残さずに除去しやすくなります。

舌ブラシを使うと効率的に舌苔を取り除けるのでできるだけ使用しましょう。

うがいをする

うがいは、食事のカスを効率的に口腔外に出すことが可能です。しかし嚥下障害の方には誤嚥のリスクになるので注意しましょう。

ガラガラうがいは上を向いて行うので、嚥下障害があって水にむせる可能性がある方に行うのは厳禁です。お口を動かせる方にはブクブクうがいを行います。

お口を動かせない方や認知症で理解しにくい方には、ウェットティッシュやスポンジブラシで口腔内を拭う方が安全です。

うがいの水を飲み込んでしまうと誤嚥のリスクがあるので、出さずに飲んでしまう場合も口腔内を拭う方がよいでしょう。

口腔内や唇に保湿剤を塗る

口腔ケアが終わったら、保湿剤を塗ることで乾燥防止になります。

ただし、塗りすぎると寝ている間に誤嚥するリスクがあるので注意しましょう。保湿剤は少量を薄く塗ることが大切です。

また、ジェル状で歯磨き粉の役割のあるものがあり、それは保湿剤とは異なるので要注意です。

薬用歯磨きではなく、保湿用ジェルと明記されているものを使用しましょう。

口腔ケアの手順まで理解したら、実践は現場で行うのが一番身につきやすいといえます。

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介護での口腔ケアのポイント

口腔ケアを実際に行うときには何が重要なのでしょうか。ただ磨くだけでよいのか、ほかに気をつけることは何か、気になる方もいるかもしれません。

口腔ケアはできるだけ利用者の負担にならないように行うことが大切です。

ここでは、口腔ケアを実施する際に注意しなくてはいけないポイントをご紹介します。

口腔ケアを行うことを伝え同意を得る

まずは必ず口腔ケアを行うと伝えることが重要です。認知症や寝たきりの方でも声かけをするだけで反応がまったく異なります。

「これからお口をきれいにします」「これから歯磨きしますね」と丁寧に伝えましょう。穏やかに簡潔に話しかけることで、警戒心が弱まり安心感を持ってもらえます。

同意を得られたか判断が難しい場合は、少し口唇に触れて様子を見ましょう。突然口のなかに指や道具を入れてはいけません。

新しい場所や人には馴染みにくいので、対応に配慮が必要な場合もあります。

介護者の反応や態度に注意しながら行うのが大切です。

実施中も黙って行うのではなく「大丈夫ですか」「痛くないですか」「次は◯◯を拭きますね」といった声かけをするよう心がけましょう。

なるべく短い時間で終わらせる

同意を得られたといっても、デリケートなお口のなかを他人に触れられるのは少なからず不快感があります。

また、長時間お口を開けているのも苦痛を伴うことがあります。

大事なのは、スムーズに実施することです。道具をすべて用意してから、手順どおりにできるだけ短時間で終わらせましょう。

長時間お口を開けてもらうのではなく、まずは歯磨きをして、次は舌を拭くというように部位ごと手順ごとに休みながら分けて行うのも一つの方法です。

できることは自身で行えるよう配慮する

自分で歯を磨ける方には自力で磨いてもらいます。手のリハビリや遂行能力の維持につながるので、機能を残しておくためにも自力の歯磨きは大切です。

手を動かしにくい方には電動歯ブラシを利用してもらうなど工夫しながら実施してもらいましょう。磨き残しがあるときは適宜手伝いが必要です。

ウェットティッシュやスポンジブラシを使用する際も同様です。

特に説明して納得したように見えても拒否してしまう方は、自分で実施するよう促すと口腔ケアを行えることがあります。

本人にウェットティッシュやスポンジブラシを持って頂き、拭く場所を指示します。不十分な場合は本人の手を動かしつつ介助しましょう。

口腔ケアをするときの注意点

口腔ケアには実施する目的やポイントがあります。しかし実際に行うときに何に注意すればよいかよくわからない方もいるでしょう。

ここでは、口腔ケアを適切に行うための注意点を説明します。

誤嚥をしないように正しい姿勢で行う

姿勢が崩れた状態で口腔ケアを行うのは、誤嚥のリスクを高めるため適切ではありません。

ベッド上で行うときは、膝部分や足底にクッションなどを当てて足部分をあげて、頭部も反らないように枕を入れます。

しかしベッド上で行うと、工夫して姿勢を整えても不安定になることも少なくありません。できれば姿勢を安定させるため、椅子や車椅子に座ってもらいます。

そのときは踏ん張れるように足を床に着け、誤嚥しないようにあごを引いて姿勢を調整することが重要です。

首が伸びていると、水分や唾液を誤嚥しやすくなります。

車椅子に安頭台がある場合、後頭部の支えがあると寄りかかって首が伸びてしまうので、取り外した方が姿勢が安定することもあります。

また、寝たきりの方や嚥下障害が重度の方で、座って口腔ケアを行うことが大きなリスクを伴う場合は完全側臥位をとると安全です。

完全側臥位は、麻痺側を上にして完全に真横に寝ることで水分や唾液を気道に流れにくくするための姿勢です。

誤嚥しにくくなるだけでなく、唾液や痰を出しやすくなるので、痰がらみを軽減できる可能性があります。

誤嚥しにくい安定した姿勢で行うのは重要ですが、本人がリラックスできる体位が理想です。

知識を踏まえたうえで本人が楽に口腔ケアを受けられる姿勢を整えましょう。

お口のなかのチェックを必ず行う

口腔ケアは、お口のなかをチェックできる機会です。観察することで汚れが溜まりやすい位置や出血の有無、咀嚼のしやすさなどがわかります。

以下に主にチェックする必要のある項目を挙げます。

• 入れ歯の有無
• 残歯数
• 噛み合わせ
• お口の汚れ具合や出血、腫れ
• 口臭
• 唾液量
• 舌苔
• 開口度

　

口腔内を観察しておくと後の口腔ケアに活かせるだけでなく、異常の早期発見につながるので大事な評価です。

また、歯や舌の状態を把握しておくと摂食嚥下機能の指標の一つとなり、食事形態の判断材料になるのでしっかり確認しましょう。

口腔ケアの注意点を述べましたが、すべて高齢者の目線で対応しなくてはいけない事柄です。逆をいえば、そのような見方ができる方を現場は欲しています。

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口腔ケアに役立つグッズ

口腔ケアに使用するグッズにはさまざまな種類があります。以下に主に必要なものを説明します。

• 歯ブラシ
• 歯間ブラシ、デンタルフロス
• スポンジブラシ
• ウェットティッシュ
• 舌ブラシ
• バイトブロック
• 義歯用ブラシ
• 口腔ケア用ジェル、保湿剤、洗口剤
• うがい受け（ガーグルベースン）
• 吸引器

　

歯ブラシは歯垢や汚れを落とす効果が一番高い道具です。年齢や歯並び、疾患の状態に合わせて選択するのが重要です。

高齢者は植毛の長さが15mm程度の小さいものを使用すると磨きやすいでしょう。出血しやすい方は植毛がやわらかめのものを選びます。

歯間ブラシやデンタルフロスは歯ブラシでは磨けない歯の隙間に使用します。サイズや形状はさまざまなので、利用者や用途にあったものを選びましょう。

スポンジブラシは棒の先端にスポンジがついており、口腔内を拭うときに口腔内を傷つけにくい道具です。

歯垢の除去に効果は期待できませんが、汚れや痰を拭うときに役立ちます。さまざまな形状があるため、使いやすいものを選択しましょう。

口腔ケア用のウェットティッシュはノンアルコールで保湿成分が含まれています。うがいでは誤嚥しやすい方の口腔内を清拭するために使用します。

ただし、水分を多く含んだ状態でお口のなかを拭くと、その水分を誤嚥することがあるので必ず絞ってから実施することが大切です。

舌ブラシは舌に付着した汚れを取るブラシです。粘膜をブラッシングするために普通の歯ブラシよりもやわらかめに作られています。

バイトブロックはお口を開けにくい方に使用します。臼歯部に装着して開口した状態で固定する道具です。

介助者は噛まれる心配がなくなり、利用者の疲労も軽減できます。しかし口を開けたままになるので、使用するときはスムーズにケアを実施しましょう。

義歯用歯ブラシは、普通の歯ブラシよりも義歯の複雑な形をしっかり磨くことができます。

歯磨きを行うときは、研磨剤を使用していない口腔ケア用ジェルを使用するのもよい方法です。

洗口剤は口臭の除去効果や清涼感がありますが、刺激が弱いものを選ぶとよいでしょう。ケア後に保湿剤を塗布すると湿潤や清潔感を維持できます。

うがい受けは、うがいした水を受ける容器です。洗面台に歩いて行けない利用者にベッドや椅子に座った状態でもうがいをしてもらうために使用します。

吸引器は看護師が主に使用するものですが、口腔ケアの際に唾液や汚れを誤嚥するリスクを軽減できる大事な道具です。

口腔内に溜まる唾液や水分を吸引する用途なので、可能であれば積極的に使いましょう。　

口腔ケアの道具や使い方を学んでおくことは、現場での強みになります。

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正しい手順でスムーズに口腔ケアを行おう

口腔ケアは、医療や介護現場において高齢者の衛生や健康を守るために必要な手技です。

実施する際には多少のテクニックや拒否する方の対応方法など工夫が必要です。

正しい知識と手順を獲得して継続的に実践することで、誰でも安心感を持って口腔ケアを行えるようになります。

しかし、継続的に実践するとなると、経験不足だと不安に思う方もいるかもしれません。

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