インシデントレポートとは?

インシデントレポートとは、利用者の転倒や誤薬、業務上のミスが発生もしくは発生しかけた際に残す記録のことをいいます。
インシデントレポートには別の職員にインシデントの詳細を共有する役割があり、情報共有の手段として重要な記録です。
インシデントの情報共有が行われないと、再度同じようなインシデントが発生したり、重大な事故につながる危険性があります。
インシデントを未然に防ぐ、重大な事故を引き起こさないためにもインシデントレポートをしっかりと残すことはとても大切です。
インシデントレポートの書き方のポイント

インシデントレポートの役割には同様のインシデントや重大な事故を未然に防ぐ役割があることを前項で解説しました。
そのためインシデントレポートは別の職員にインシデントの詳細が伝わらなければ意味がありません。
ではインシデントの詳細が伝わるためにどのようなレポートを書けばよいのでしょうか。
ここでは詳細が伝わるインシデントレポートの書き方を3つのポイントから説明します。
客観的な事実を記載する
インシデントレポートを書く際、客観的な事実のみを記載しましょう。
より正確に言いかえれば、インシデントレポートに主観的な内容を書かないということです。
主観的な内容とは、自分の感想や推測のことを指します。なぜ主観的な内容が不要なのか、誤薬インシデントを例にして解説します。
誤薬インシデントが発生した際に「忙しくてしっかりと薬袋を確認できなかった」といった記録では、忙しいという主観的な感想が入っており不適切な記録です。
この場合、なぜ忙しかったのかを客観的に分析し、記録に残すことが必要となります。
例えば「薬を提供する際他利用者のトイレ誘導が重なってしまい薬袋を確認せずに提供してしまった」という記録ならば、忙しかった理由が客観的な事実に基づいて明確になっています。
このように客観的な事実に基づいた記録ならば、インシデント発生の原因究明がやりやすくなり、再発防止につながるでしょう。
具体的なデータを記載する
客観的な事実とともに具体的なデータを記載するとよりわかりやすいインシデントレポートが作成できます。
実際に前の例文に具体的なデータを追加してみましょう。
「13時、A様に薬を提供する際、B様のトイレ誘導が重なってしまった。そのため薬袋を確認せずにA様に薬を提供してしまった。」
このように薬を提供した時間と提供した利用者の名前、トイレ誘導を希望した利用者の名前を記載することで、情報がより明確になり伝わりやすいインシデントレポートになります。
5W1Hを活用する

インシデントレポートを作成する際は5W1Hを活用しましょう。
5W1H(いつ・どこで・誰が・なにを・どのように)という文章の構成を意識すると、自然と具体的なデータを記載することができます。
情報を漏らすことなく整理されたインシデントレポートを作成することができます。先ほどの例文に5W1Hを当てはめてみましょう。
「6月4日13時、居室にて介護職員がA様に薬を提供する際、B様のトイレ誘導が重なってしまった。そのため薬袋を確認せずにA様に薬を提供してしまった。」
このようにいつ誰が何をしてしまったのかを明確にすることでインシデントがなぜ起こってしまったのかをレポートから振り返ることができます。
インシデントレポートを作成する際は、以上の3つのポイントを意識して、明確で簡潔な文章を作成することを心がけましょう。
しかし、初めてのインシデントレポート作成に戸惑う方もいると思います。
そういった方は施設を選ぶ際に文書作成の研修や、丁寧に指導してくれる職員がいる施設を選ぶことも大切です。
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インシデントレポートの構成内容

インシデントレポートの書き方とポイントを解説しました。ここからは、文章の書き方や意識すべきポイントを踏まえ、より詳細な構成内容を解説します。
インシデントレポートをより詳細にわかりやすく、そして事故を未然に防ぐことができる内容が書けるようにしましょう。
発生日時や場所
まずインシデントが発生した日時と場所を明確に記載しましょう。
いつどこで発生したかを明確に記載することで、発生状況の様子を想像しやすくなります。特に、場所の記載は細かく記載するとよりよいレポートになります。
例えば居室でのインシデントが発生した場合、居室内とだけ書くよりも居室の洗面台付近など、具体的な場所を記載しましょう。
発生状況と発生後の対応
日時と場所を記載した後は、発生状況と発生後の対応を記載します。
発生状況では、誰が何をどのようにしたかを詳細に記載しましょう。
例えば、A様が車椅子から降りる際にバランスを崩して転倒したといったようにインシデント発生時の一連の動作を細かく記載します。発生状況を記載した後は、発生後の対応も記載しましょう。
転倒のインシデントの場合は意識やケガの有無を確認したかどうか、バイタルの測定など発生したインシデントに対して自分が何をしたかを記録します。
対応の記録は、職員への情報共有のほかに、利用者の家族への報告やクレーム対策の役割も担っています。
インシデントに冷静に真摯に対応したかどうかをレポートにはっきりと記載しましょう。
原因分析

発生状況と対応を記載した後に、インシデントの原因分析を行います。
原因分析を行う際は、何が原因かを客観的に記載することが大切です。
例えば、利用者が居室で転倒したというインシデントの原因分析を行う際、利用者がバランスを崩したからだけでは分析にはなりません。
足に力が入らなかったといった身体機能の異常や床が濡れていたといった環境の問題など、原因にもさまざまな要因が存在します。
そういった多角的な視点で原因分析を行うことで、有効な再発防止策を考えやすくなるでしょう。
再発防止策

最後に、発生したインシデントが今後起こらないようにするための再発防止策を記載して、インシデントレポートは終了となります。
再発防止策を考える際に大切なのは、その予防策が実現可能かどうかです。
極端な例ですが、24時間利用者の見守りと付き添いを行うという転倒予防策を打ち出しても、現実的に困難なため実施ができません。
介護職員も利用者も実現可能な予防策を考えましょう。また利用者の尊厳を守ることも再発防止策を考える際に必要です。
歩行可能な利用者に車椅子を強制させる、出歩かないように縛り付けるといった行為は身体拘束とみなされ虐待と判断される可能性があります。
利用者の尊厳と自立した生活を守る再発防止を心がけましょう。
今回は転倒インシデントを例に考えましたが誤薬や誤嚥などその他のインシデントでも構成は基本変わりません。
実際に書く際は上記の構成内容を踏まえたうえで、簡潔でわかりやすい事実をもとにしたレポートを作成しましょう。
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インシデントレポートの例文

ここでは書き方のポイントや構成内容を踏まえた例文を紹介します。
インシデントレポートを書く際の参考にしてください。
転倒事故の例文
転倒事故の例文は以下のとおりです。
「6月5日15時頃、トイレ前の廊下にて、A様が歩行器を使用してトイレへ向かわれていた際、バランスを崩して前方へ転倒しているのを発見しました。」
「意識状態と外傷を確認したところ腕にかすり傷が認められたため、看護師へ報告し処置を依頼しました。」
「防犯カメラの映像確認の結果、歩行器の速度と歩調が合わず歩行器が先行したことが原因です。速度調整機能付きの歩行器へ変更し、歩行時の見守りを強化します。」
このように、出来事や原因、再発防止に向けての対応などを記載しましょう。
誤薬の例文
誤薬の例文は以下のとおりです。
「6月6日8時頃、食堂にてB様へ服薬介助を行った際、誤ってC様の薬を提供する誤薬が発生しました。」
「看護師へ報告のうえ嘱託医へ確認したところ、水分を多めに摂取し経過観察を行うよう指示を受けました。ご家族にも連絡して謝罪しています。クレームはなかったです。」
「配薬箱内の薬の順番が普段と逆になっていたことに加え、薬袋の氏名確認を行わず提供したことが原因です。今後は配薬箱の順序確認と服薬前の薬袋確認を徹底します。」
発生した事案、医師や看護師への連絡、家族への対応など詳細かつ簡潔に記載します。原因や再発防止策も記載しましょう。
誤嚥の例文
誤嚥の例文は以下のとおりです。
「6月7日18時、食堂にて夕食の際、E様が魚を食べたときにむせ込み、誤嚥が発生しました。」
「直ちに背部タッピングを実施しその後バイタル測定を行いましたが、現在まで発熱などの異常は認められていません。」
「常食を提供していましたがご本人より魚の嚥下が難しいとの申し出があったため、今後は魚のみ一口大で提供し、経過観察を行います。」
起きた内容や利用者の容態、提供する食事内容の変更点などわかりやすく記載しましょう。
インシデントレポートを書く際の注意点

インシデントレポートは発生した出来事を正確に記録し再発防止につなげるための大切な書類です。
しかし、書き方を誤ると事実が正しく伝わらず、原因分析や改善策の検討に支障をきたす場合があります。
ここでは、作成時に意識したい注意点を解説します。
言い訳や誰かを非難する表現をしない
インシデントレポートは責任の所在を追及するためのものではありません。
そのため、自分を正当化するための言い訳や、特定の職員を非難する内容を記載することは避けましょう。
例えば、利用者の転倒が発生した際に別の職員が見守りをしていなかったことだけを強調すると、客観的な報告とはいえなくなります。
また、自身の判断や行動について必要な記載が不足してしまう可能性もあるでしょう。
大切なのは、誰が悪いのかではなく、どのような状況で何が起きたのかを整理することです。
事実を時系列に沿って記録することで、組織として適切な原因分析を行いやすくなります。
感情論や推測などによる曖昧な表現をしない

インシデントレポートには客観性が求められます。そのため、感情や憶測を交えた表現は避けなければなりません。
例えば、「利用者が不機嫌だったため転倒したと思われる」「職員が忙しかったので確認不足になったはずだ」といった記載は推測に過ぎません。
実際に確認できた事実と本人の主観が混在してしまうため、正確な分析を妨げる要因となります。
また、少し目を離した、かなり混雑していたなどの曖昧な表現も注意が必要です。時間や状況を具体的に記載した方が内容も伝わりやすくなります。
客観的な報告を行うためには、自分が見聞きした内容と推測を明確に区別する姿勢が大切です。事実を中心にまとめることで、レポートの信頼性も高まります。
速やかに提出する
インシデントが発生した際は、できるだけ早くレポートを作成して提出することが大切です。
時間が経過すると記憶が曖昧になり、当時の状況を正確に再現しにくくなります。細かな経緯や利用者の様子を忘れてしまうことも少なくありません。
また、重大な事故につながる可能性がある事案では、迅速な情報共有が求められます。報告が遅れると、同様の事故が繰り返されるリスクも高まるでしょう。
もちろん、利用者への対応や安全確保を優先する必要があります。しかし、対応が落ち着いた後は速やかに記録を行い、関係者へ報告することが大切です。
正確な情報を早期に共有することで、組織全体の安全管理にも役立ちます。
初めて介護の現場で働く際は、情報共有が盛んな施設を選ぶことで、知識や経験を積めるでしょう。
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インシデントレポートを再発防止に活かすには

インシデントレポートは提出すること自体が目的ではありません。
報告された内容を分析し、再発防止策につなげてこそ本来の役割を果たします。
ここでは、インシデントレポートを有効活用するための考え方を紹介します。
インシデントレポートに対するネガティブな考えを改める
現場によっては、インシデントレポートに対してマイナスのイメージを持つ職員もいます。
報告書を書くことを失敗の報告や反省文の提出ととらえてしまうと、報告そのものをためらう原因になりかねません。
その結果、本来共有すべき情報が組織内に蓄積されず、同じミスが繰り返される可能性があります。
しかし、インシデントレポートは個人を責めるための仕組みではなく、事故を未然に防ぐための重要な情報源です。
小さなヒヤリハットの段階で課題を発見できれば、重大事故の予防にもつながります。
職員一人ひとりが報告を前向きにとらえられる環境づくりも欠かせません。
気になることをすぐに報告できる職場風土が整うことで、より多くの事例が共有され、安全性の向上につながるでしょう。
カンファレンスや委員会などを通して組織での改善を目指す

インシデントレポートは提出後の活用が大切です。
個人だけで振り返るのではなく、カンファレンスや事故防止委員会などの場を活用しながら組織全体で検討する必要があります。
例えば、転倒事故が複数発生している場合には利用者個人の問題だけでなく、施設環境や見守り体制に課題がないかを確認できます。
記録を蓄積することで共通する傾向や原因が見えてくることもあるでしょう。
また、改善策を検討した後は実際に運用し、その効果を検証することも大切です。
対策を実施して終わりではなく、継続的に見直しを行うことで安全管理の質が向上します。
インシデントレポートは現場の課題を可視化するための貴重な資料です。
組織全体で情報を共有しながら改善を積み重ねることで、利用者が安心して過ごせる環境づくりにつながります。
施設選びの際も、そういった情報共有が行われている場所を選ぶと、安心して働くことができます。
しかし、一人でそういった情報を集めるのは難しいこともあるでしょう。
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インシデントレポートを記載して事故の防止に努めよう

介護の現場では大小さまざまなインシデントが存在し、すべてを防ぐことは困難です。
インシデントレポートは施設に存在するインシデントの経験を共有し、知識を蓄積していくための大切な記録となります。
小さなインシデントも見逃さず、発見した際は隠さずにレポートとして発信していくことが、結果として大きな事故を未然に防ぐ策になるでしょう。
本記事で紹介したインシデントレポートの書き方・構成内容・注意点を参考に、詳細で簡潔なインシデントレポートを作成し、事故予防に努めていきましょう。
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